印刷工場は、売買の時に土壌汚染調査を求められることが多いって聞きました。なぜなんです?
印刷工場は、印刷物に着色する「塗料」や「着色料」「溶剤」を使用します。それらに土壌汚染物質が含まれることが多いためなんです。
印刷工場を売却する際に、土壌汚染調査を求められるケースが増えています。「印刷工場で使われる土壌汚染物質」と「印刷工場での調査」について詳しくみていきたいと思います。印刷工場は自主調査であることが多いですが、義務調査になるケースもありますのでご注意ください。
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インクは<CMYK>でつくられている
印刷の方式やインクの説明の前に、インクの基本<CMYK>カラーについて少し説明しておきたいと思います。
CMYKは、紙などの印刷物に使われる表現方法で、プロセスカラーとも呼ばれます。インキによる色の表現は基本的にCMYKであり、カラー印刷する場合はCMYKが標準色です。プリンターで出力する際には、家庭用も業務用も同じくCMYKで色を再現します。
※近年はCMYKにさらにインクを追加した5色、6色プリンターも存在します。
C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)は、印刷物において色を表示する際に使われ、理論上はこの3色の組み合わせですべての色を表現できます。混ぜれば混ぜるほど暗い色、黒っぽい色へと変化するため、CMYKによる色表現は「減法混色」や「減法混合」とも呼ばれます。
しかし、実際にインキなどでシアン、マゼンタ、イエローの3色を混ぜても、純粋な黒にはなりません。CMYだけでは正確な黒色を再現することができないので、より美しく印刷するためにKをプラスし、CMYKとなっています。
なお、CMYKのKを英語のBlackや日本語の黒(Kuro)の略だと認識している人も多くいますが、それは誤りです。正しくは、Key plate(キープレート)の頭文字を取ったものです。キープレートとは、画像の輪郭や罫線、文字などを表現する印刷板を指し、この印刷版によく黒が用いられていたことから、Kが黒を表す由来になったとされています。
印刷物の色は、各インキをどのように配分するかの割合(濃度)によって決定します。濃度は0~100%の数値で表され、数値が小さいと薄い色、大きいと濃い色となります。
ただし、CMYKで同じ数値を指定しても、用紙や印刷機、湿度など、環境の違いによって出力される色が微妙に変わる可能性もあります。ポスターやチラシなどの印刷で厳密に色合いを追求したい場合は、イメージと異ならないよう、本印刷の前に印刷状態の確認をおこなう「色校正」を利用して確認する手段もあります。
一方、パソコンやタブレット、スマートフォンなどのディスプレイ上で使われる色は「RGB」で表現されます。印刷物に使われる色は「CMYK」で、表現する仕組みが違います。そのため、モニターで見ていたRGBの色とCMYKで印刷された色では違いがでてきたりします。
印刷方式の種類
一般に印刷というと、オフセット印刷を指しますが、他には、グラビア印刷やフレキソ印刷があります。
オフセット印刷
一般に印刷というと、このオフセット印刷を指します。
「平版(太い銅の筒に平たい版)」から一度「アルミ板(ブランケットと呼ばれます)」に転写したインクを印刷物に乗せる方法です。印刷物と版が直接触れないのが特徴。
主な用途は、出版、商業印刷、包装紙、カートン、ライナー紙、シート等になります。
グラビア印刷
グラビア印刷は「出版印刷・特殊グラビア印刷」とも言われます。凹版をインキ溜め(インキパン)に浸し、凹み以外の部分に残っているインキをドクターブレードという落とし刃で掻き落とします。凹み部分に残ったインキをローラーでフィルム等の印刷物に圧着させることで印刷されます。
紙以外のいろいろなフィルムに印刷出来ること、シンプルな大量印刷が得意であることから、即席ラーメンの容器や包装の印刷に使われ、昭和35年~45年の高度成長時代に急速に発展した印刷方法です。
主な用途は、出版、軟包装(食品包装)、紙器、建装材などです。
フレキソ印刷
凸版印刷です。樹脂で出来た版の凸部にアニロックスロールを介してインキを付着し、基材に転移させます。
かつてのフレキソ印刷はダンボールや紙袋の印刷がほとんどでしたが、技術の向上(ギヤレスによるピッチ制限からの解放・シームレス版の登場によるエンドレス化の実現・印刷機の改善・デジタル化による版の驚異的な進化)により、グラビア印刷と出来ることは変わらなくなってきている。
溶剤インキや水性インキ、UVインキ全てが使用可能。水性のインキを使用した場合は、インキに有機溶剤がふくまれない、グラビア印刷と比較してインキの使用量が少ないことから、環境に優しい印刷方式です。
主な用途・・・段ボール、ビニール袋、牛乳パック、紙器など
顔料インクの成分
では、具体的に印刷のインクで使われる顔料についてどのようなものがあるか。
日本工業規格で規定されている顔料は次のものがあります。
- 白色顔料:亜鉛華・鉛白・リトボン・二酸化チタン・沈降性硫酸バリウム及びパライト粉
- 赤色顔料:鉛丹・酸化鉄赤
- 黄色顔料:黄鉛・亜鉛黄(亜鉛黄1種・亜鉛黄2種)
- 青色顔料:ウルトラマリン青・プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)
- 黒色顔料:カーボンブラック
鉛、シアンなどの重金属類の表記が上の顔料のリストに出てきていますが、ここからは詳しく、「着色料」や「溶剤」で土壌汚染が考えられる成分について見ていきます。
印刷工場・製版工場で考えられる土壌汚染
印刷工場・製版工場では、印刷物に着色する塗料や着色料、そして溶剤に含まれている特定有害物質などによる土壌汚染の可能性があります。
有機溶剤(VOC)
グラビア印刷・オフセット印刷などでは、溶剤を含むインキを印刷に使用します。例えば、グラビア印刷のグラビアインキでは溶剤の割合は40%~60%です。また、湿し水や印刷機の洗浄にも大量の溶剤を使用します。使用されている代表的な有機溶剤は、トルエン、ベンゼン、キシレン、酢酸エチルですが、
印刷機の洗浄剤として、土壌汚染対策法の特定有害物質であるトリクロロエチレンやジクロロメタンが使用されている、もしくは過去に使用されていた可能性があります。
- トリクロロエチレン(トリクレン)
- ジクロロメタン(メタクレン)
※トリクロロエチレンは、分解生成物(オレンジ文字)も含みます。
インキ・顔料に含まれる重金属類
インキや顔料については、業界の努力もあってだんだんと無害な物質が使われるようにはなってきています。現在使用されていなくとも、長年印刷工場をされている場合には過去に使用されていたインキについて確認する必要があります。
下記の物質が塗料や顔料に含まれている(過去に含まれていた)可能性がある重金属類です。
- 鉛
- 六価クロム
- 砒素
- セレン
- カドミウム
- 水銀
※取り扱っているインクの種類によって、含有されている物質が異なります。
例えば、クロムイエロー類、クロムバーミリオン、ジンクロメートなどの顔料は六価クロムを含みます。
具体的に、どんな種類のインキ・顔料に重金属類が含まれているのかは、塗装塗料のページに詳しくまとめています。
これらの特定有害物質が必ずしも印刷・製版工場で使用されているわけではありませんが、土壌汚染として見つかるケースがあります。
近年のインキに含まれる土壌汚染物質の動向
近年は、印刷の動きに対応して、より印刷適性(品質効果、作業性)がよく、安定性のあるインキの追求も顕著です。
また、環境・安全対応インキの開発として、
・アロマフリーオフセットインキ(溶剤に芳香族炭化水素を含まないインキ)
・グラビアインキでの水性化とノントルエン化の登場
・電子線(EB)や紫外線(UV)でインキを硬化させる無溶剤化技術の開発
なども進んでいます。
近年では、大豆油インキなども、、’97年7月に新たに日本環境協会認定のエコマーク商品の対象になったこと、また、米国大豆協会が認可する大豆油使用の認証マークである「ソイマーク(Soy Mark)」が表示できることなどから、時流に乗って「環境に優しいインキ」として注目され、その採用が目立ち、拡大してきました。
過去の顔料も含めて土壌汚染の可能性を検討を
ただし、土壌汚染の原因となる、揮発性有機化合物や重金属類は長年に渡って分解されずその場に留まり続けるという性質があります。
土壌汚染について確認する場合には、現在使用されている顔料だけでなく過去に使用されていた顔料や溶剤についても確認することが必要になります。特に、鉛や砒素などは昔の塗料には含まれていたことが多かったそうです。もちろん工場で使用されている塗料や溶剤等について詳しく調べて、使用された形跡がないものであれば調査項目から除外することも可能となります。
土壌汚染調査は義務?
環境確保条例が制定されている東京都の例を挙げさせて頂きます。
東京都では、区が独自に工場を調べ、工場を廃止する際には、環境確保条例 116 条に則った土壌汚染調査を行わなければなりません。東京都以外でも、法以外に、都道府県条例が定められているケースがありますので、ご注意ください。
※東京都以外の場合にも、有害物質を使用し行政へ届出ている場合は基本的に義務調査となります。
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