今回は、農薬の半減期についてご紹介させていただきます。
土壌汚染対策法で定められている農薬類は、実はかなり限られた物質になります。農薬類の半減期と、特定有害物質のなかの農薬類についてご紹介していきます。
1. 農薬の「半減期」とは?
農薬は農作物の生育を守るために欠かせない存在であり、病害虫の防除や雑草の抑制に広く用いられてきました。一方で、その使用による環境影響、特に土壌や水質への影響も長年にわたって議論されています。
農薬の環境中における「残留性」、すなわちどれほど長くその成分が残るのかを示す指標として、「半減期(はんげんき)」が極めて重要なんです。
半減期とは、ある物質が自然に分解されていき、その濃度が元の半分に減少するまでにかかる時間を指します。農薬の半減期は、土壌中での化学的な安定性や微生物による分解速度、日照、水分、気温など多くの環境要因によって左右されます。
2. 現在使用されている農薬の「半減期」
今の農薬の半減期は大部分が 30 日
現在流通している農薬の多くは、比較的短い半減期、すなわち「30 日以内」で半減するように考えられています。
このような農薬は、作物の生育期間中に効果を発揮し、収穫時期にはほとんど分解されていることが検証されているため、食品の安全性が図られています。
(群馬県農政部農業構造政策課)
こうした背景には、農薬登録制度の厳格化や、残留農薬に関する国際的な基準(MRL:残留基準値)の存在があります。また、土壌や地下水の汚染を防止する目的から、残留性の高い成分は次第に淘汰されつつあります。
日本の農薬の農薬登録基準
日本の農薬の登録基準として、昭和46年には、土壌中半減期1年以上の農薬については、原則として登録ができないと定められました。
現行(平成29年4月に改正)は、土壌中半減期が180日以上の農薬については、原則として登録できません。
参考文献: 環境省HP農薬登録基準について
3.過去に問題になった「農薬類」
毒性や残留性の問題から使用が制限・禁止されたものは、 DDT や BHC といった有機塩素系農薬(殺虫剤)が代表的で、これらは環境中での分解が極めて遅く、数十年にわたって残留することもあります。
また、農薬による土壌汚染の問題は局所的ではありますが、工場跡地や古い農薬保管施設の跡地などでは、依然として高濃度の汚染が報告されており、調査・対策の重要性が指摘されています。
DDT(有機塩素系殺虫剤)
DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は、1938 年に米国で開発された有機塩素系殺虫剤です。急性毒性が低い割に殺虫力が高く、安価なことからかつては世界的に広く使用されました。化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質及び「POPs に関するストックホルム条約」の対象物質に指定されており、製造・使用が
禁止されています。環境中での残留性が極めて高く、動物実験で発ガン性、変異原性が認められています。水質汚濁防止法の要調査項目(300 物質)に登録されています。
BHC(有機塩素系殺虫剤)
BHC(ベンゼンヘキサクロライド)は、別名 HCH(ヘキサクロロシクロヘキサン)とも呼ばれています。1825 年に合成された有機塩素化合物で、1941 年に殺虫力のあることが発見されて以来、DDT とともに農薬として世界的に広く使用されましたが、昭和 46 年以降は農薬としての使用が禁止されています。動物実験で発ガン性、変異原性が認められています。水質汚濁防止法の要調査項目(300 物質)に登録されています。
(国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所 資料による)
4.土壌汚染対策法で該当する農薬類は?
チオベンカルブ(除草剤)
チオベンカルブは、チオカーバメート系の除草剤(農薬)で無色の液体です。水田除草剤として用いられ、雑草の発芽期ないし生育初期に散布します。具体的には、水田の田植時の前後においてノビエ、マツバイなど雑草の防除を目的に使用されます。
環境基準値は、「0.02mg/L 以下」と定められています。
水が張られた条件下では約 100 日、畑地条件下(乾いた環境)では約 45 日で半分の濃度になります。この成分は特に水田で使用されることが多く、水中では分解が遅いため、長期間にわたり残留する可能性があります。
チウラム(殺菌剤)
チウラムは、ジチオカーバメート系の殺菌剤(農薬)で、主にリンゴ畑での黒星病、黒点病などの病害の防除を目的に使用されています。トマト、キュウリその他の作物の病害予防を目的とした播種前の種子消毒に用いられています。ゴルフ場をはじめとする芝生にも葉枯病、ブラウンパッチの防除を目的に使用されています。
土壌中での半減期は、約 15 日です。比較的分解が早く、現在でも使用頻度の高い成分です。
有機リン化合物の EPN
EPN は、淡黄色の固体です。有機リン系殺虫剤として、広範囲の害虫に使用されています。従来、人の健康の保護に関する基準に定められていた項目の有機リン化合物の一つでしたが、基準値の見直しにより要監視項目に移されました。指針値は、「0.006mg/L 以下」と定められています。土壌中での半減期は、2 週間〜1 ヶ月です。
※有機リン系は神経毒性を持つことで知られ、急性毒性が高いため現在では使用制限が厳しいですが、過去には広く使われていました。
パラチオン(有機リン化合物)
パラチオンは、有機リン化合物の一種で、強力な殺虫剤として知られていました。しかし、急性毒性が強く、人や動物への健康被害が懸念されることから、現在は使用が禁止されています。土壌中での半減期は、約 7 日です。短期間で分解されるが、使用当時はその毒性が大きな問題となりました。
メチルパラチオン(有機リン化合物)
メチルパラチオンは、パラチオンと同じく農薬、殺虫剤の一つです。毒性は、パラチオンの1/3ですが、こちらも強い急性毒性をもつとして、農薬としての使用が禁止されました。世界中のほぼすべての国で販売と輸入が許可されていません。2008 年中国製冷凍食品から検出されて報道されました。水中での半減期は、14 日以内です。
メチルジトン(有機リン化合物)
メチルジトンは、パラジオンと同じく農薬で、ダニ、アブラムシ等に対して殺虫剤の形で使用されてきました。現在、その高い毒性により農薬の指定からはずされ毒物及び劇物取締法において特定毒物に指定されています。
土壌中での半減期は、2 週間以内です。
比較的短期間で分解されるタイプですが、有機リン系に分類されるため、リスク評価は慎重に行われています。
上記のように、同じ農薬でも使用環境によって半減期が大きく異なります。特に水田などでは分解が進みにくく、除草剤などの残留性が高くなる傾向があります。
土壌汚染対策法で定められている農薬類の半減期も、長くても100日程度となっています。現在、登録されている農薬類の半減期も30日程度ですので、分解はされやすいと思っていただければと思います。
畑ですと、農薬類と合わせて、ダイオキシン類のほうが気になる方もいらっしゃるでしょうか。ご不安な点など、お気軽にご相談ください。
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